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エッセイ - 寒い夜のエコツアー!

寒い夜のエコツアー!

- 第1回 -

下地幸夫 (しもじ ゆきお)

1963年生まれ 浦添市出身
沖縄県ミバエ対策事業所(現沖縄県病害虫防除センター)で特殊害虫防除事業の研究に従事後、沖縄県産業振興公社沖縄イノベーション創出事業プログラムオフィサーを経て、現在、自然体験学習型エコツアー会社 沖縄ネイチャーウォーク代表
沖縄大学地域研究所特別研究員。
農学博士(岡山大学大学院)。
専門:生態学。
著書:「沖縄のクワガタムシ」(新星出版)

寒い夜のエコツアー!

1月、沖縄にも本格的に冬らしい寒さが訪れた。1年を通してこの時期のキャンプが一番いい。拾い集めた薪で暖をとり、暖かいシチュー、炙った鯣を肴に泡盛をすするのが最高。そして夜更けまで友人たちと語るのだ。

今回は二人のアウトドア素人の友人に冬のやんばるで野外キャンプを体験させるのが目的なので、無難な辺野喜(べのき)ダムのほとりを選んだ。そこは森に囲まれ、外灯があり、水道、トイレ、自動販売機、電話ボックスそしてきれいに刈り込まれた芝生がある。都会の温室のような所で育った彼らにとって自然の中で過ごしているような気分にさせてくれるには十分すぎるほどの環境である。これならきっと喜んでくれるはずだ。それでその夜はこの初級者コースに合わせるため、ぼくはやんばるに来ると必ずやっている森の中へ分け入る自然探索はちょっと我慢することにした。それでもぼくの耳は闇の向こうにある森の中の様子が気になっていた。

シ〜ンとした闇。空はちょっと曇っている。森の中からリュウキュウコノハズクの静かな寝息のような鳴き声が聞こえる。そういうわびさびの利いた中を時折、「ギャオッ」と森の静寂を裂く、きっとネコが尻尾を踏まれるとこう発するであろう、大きな叫び声がした。イシカワガエルである。ツヤツヤした緑と茶色の斑模様が日本一美しいと言われている(人によってはこの斑が気色悪いそうだ)このカエルは絶滅が心配された県指定の天然記念物である。

イシカワガエルは繁殖期に入っているため、動きが活発になっているようだ。森の中の渓流では自分の遺伝子を残すためすさまじい競争が繰り広げられているに違いない。その他にも、ハナサキガエルやナミエガエルといった沖縄島固有のカエルたちも元気に活動していると思われる。カエルというものは、冬は冬眠するものだという常識はここでは非常識なのだ。

カエルツアーと称する連中がやって来た。日頃付き合っている自然探索仲間たちであった。目的はイシカワガエルだ。こういう遊びは自然発生的に誰かが「行こうか」と言ったときに暇な連中が集まって翌日にも繰り出すのである。そして××ツアーとか名付けて楽しんでいるのである。今夜はカエルを観に来たからカエルツアーなのだ。

ぼくの心の中では「ぼくも一緒に連れてって、連れてって」と懇願する声がこだまのように響いていた。しかし、寒くて暗い中を懐中電灯だけを頼りに歩き回ることに興味のない友人たちを強引に連れて行けるはずがない。後でひどいキャンプだったとさんざん言われるに決まっている。

「今夜はおもしろい生態が観察できそうだ」と期待に目を輝かせていた彼らを羨ましげな目で見送った後、キャンプの周辺はすごく冷え込んできた。そろそろとテントに入って寝る支度をする。

夜中、小便がしたくて外に出ると周辺に太い丸太のような物が何本も転がっていた。よく見るとカエルツアーの連中だ。こんな寒い中、寝袋だけで過ごしているのだ。それも疲れ切ってぐっすり寝入っている。なんとも野性味あふれる姿だ。テントの中には暖かい毛布にくるまって幸福至極という顔ですやすや寝ている友人たちがいる。ぼくは友人たちをツアーに参加させなくて良かったな、と思いながら丸太棒の横を通り抜け、肩をゾクゾクッと震わせると、トイレの方へ小走りで向かった。

テントに戻り、明日の事を考えながら床に付いた。友人たちはこれでも十分にワイルドなことをしていると思っているはずで、その期待を裏切らないためにも明日はちょっとワイルドっぽく初心者向けの安心安全な“これが沖縄のエコツアーだ”という感じで満足させないとなぁと、思いを廻らせていたが、寒さのせいか 暖かい毛布の誘いに、いつの間にか眠りにおちていた。

※「沖縄ネイチャーウォーク」はこちら>>

【エッセイ】[3] 楽あれば苦ありのイチゴ狩り>>

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掲載日:2009/2/17

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