6年生全員121名 創作劇『さっちゃん - もう一人ぼっちじゃないから』
その劇はいきなり、主人公さっちゃんの「やめてー!やめてー!お願いだからもうやめてー!」と叫び声を発するセリフから始まり、観客はその意外な始まり方に驚かされ、そのまま、ストーリーに引き込まれて行きます。
舞台の場面は、普段の学校生活で楽しく遊ぶ姿を、子ども達の吹くリコーダーの和やかなしらべに乗せて子ども達が演技し、「さっちゃんは、今まで皆と楽しい学校生活をおくっていました・・・が、」と表現します。
続けて、学園ドラマの始まりを告げるテーマソングが流れ、舞台に踊り出て来た女子児童たち約30名が快活なロックミュージックに合わせて、これまで練習して来たダンスを披露した。これは、ミュージカル仕立ての学園ドラマなのかな?と思わせる様なダンスで、印象的なのは、主人公も登場させ、踊るシーンだが、子ども達の考えた演出だそうです。とにかく子ども達は上手に、とても楽しそうに踊っていました。「練習に時間掛かったんだろうな〜」と連想させます。
次に、体育着姿の男子児童らが、突然、舞台下に運動用のマットを敷きだし、8段の跳び箱を次々に担ぎ込んできました。それも、とても手際がいい!そして、アップテンポな曲に合わせて、前転開脚や後転開脚。また、跳び箱の上を前転飛びなどで次々に跳び越し、体育実技を披露してくれました。これも「あの準備の手際良さは、かなり練習したんだろうな〜」と感じさせます。
ここら辺から、学芸会の劇にしては、かなり場面展開が凝っていることに気付きだす。
「何だこれは?」もしかしたら、面白そうな楽しい創作劇が観られるかも?と、この先の展開を期待して見守りました。
ところが、一転して不吉な感じのBGMが流れ、語り役の女の子が「けれど、あの日、ちょっとしたことから、あの恐ろしい、いじめが始まったのです。」と言ってドラマを再開させたのです。
そのとき、「あ〜これは大変だ!子ども達は今、凄いテーマの創作劇をやろうとしているんだ!」
と事の重大さにやっと気付き、かーっと熱い何かが体の中にこみ上げてきました。
そして、主人公の「幸子」こと「さっちゃん」が「つぎは私、いくわよ!」と駆け出した次の瞬間、跳び箱を跳びそこねてしまいます。「これぐらいも跳べないのか、鈍くさいの!」「お前の顔を見ていたらイライラするぜ!」と突き飛ばし、「いいか〜先生にばらすなよー!」クラスメイトの男児たちから「アホブタ!バーカ!」等と口々に罵声を浴びせられるところから「いじめ」が始まります。
子ども達の創作劇にしては、あまりにもシリアスな展開とリアルな演技に観衆はクギ付け。
そこに親友の「上原さん」が登場して「幸子」をいたわるのですが、幸子をいじめる女児のグループが彼女をさえぎり、「あなた、先生にイイコ、ブリッコしてるでしょう!」「それに、このダサイ髪型!男子から嫌われるのも無理ないわ!」「あ〜あ!こんな人と同じクラスだなんて!」「あなた、私の給食を入れないでよ!」等と散々に言われ、「いじめ」がいっそう深刻なものになっていきます。
このシーンも、集団でいると平気で「残酷な言葉」を使ってしまう子ども達を表現しているのですが、女子児童たちの迫真の演技に、本物のドラマを見ているような感覚になり「ひどい!さっちゃんが可愛そうだ!」と観衆が皆、入り込んでいったのです。
そこから段々といじめ方がエスカレートしていきます。男児、女児のクラスメイト達が校舎の玄関にある靴箱から幸子の靴を取り出し、面白がってゴミ箱に捨ててしまいます。そして「いい気味!いい気味!」と言いながらその子達は帰ってしまうのです。そこへ「上原さん」が「幸子」と一緒に帰ろうとやって来て、靴箱に「幸子」の靴だけが無い事に気付き、二人であたりを探すのですが…。
「どこにもない」「どうしよう、お家に帰れない」と落ち込む「幸子」に、「上原さん」は「さっちゃん、気にすること無いわよ!」「私の、片方貸してあげるから、二人でケンケンして帰ろう?」と優しく励まし、幸子の「ありがとう、上原さん!」との言葉に、力強く「さっちゃん、皆のいやがらせに負けちゃだめよ!」とも励ますのでした。
この場面での、二人のはまり役の演技に、会場のお父さんたちの目頭が熱くなり、お母さんたちからはすすり泣く声が聞こえていました。会場全体が込み上げてくる熱い感動を必死に押さえ、ストーリーの展開を見守っている、そんな雰囲気でした。
帰宅した「幸子」が、日記に「上原さん」に対する感謝の気持ちを「本当の友達だ」と綴る言葉を、語り役の女の子が語るのですが、その際のBGMに、舞台右側でリコーダーを持つ約30名の児童達が「マルセリーノの歌」という曲を演奏しました。またこれがイメージにピッタリ!
翌朝、更なる非情な出来事が彼女を待っていました。「幸子」が学校へ登校し、クラスの仲間に「おはよう!」と挨拶をすると、クラスメイトは示し合わせたかのように、どの子も彼女を無視したのです。そして、とうとう、彼女が一番心の支えにしていた唯一の友達「上原さん」からも、「ごめんね、あなたと話をすると私まで仲間はずれにされちゃうの、ごめんね!」と見放されてしまいます。「幸子」は、行き場を失い登校拒否になってしまうのでした。
舞台では、「幸子」が悲しみに暮れながら学校を去っていくシーンを素晴らしく見事に演出していました。まず、「さわってみたい冬の花〜」と始まる子ども達の合唱の歌、舞台左手でその歌を支えるピアノ演奏楽団、そして、6年児童・渡邊明寿香さんによる素晴らしいバイオリンの独奏に乗せて、切なく悲しい詩を朗読するというプロ顔負けの演出はすごかった。主人公「幸子」を演じる6年児童・三津井幸代さんは「役に成りきって演じている女優」という表現がふさわしい程の演技でした。
「幸子」が学校へ来なくなってからしばらくすると、彼女に対する嫌悪感にとらわれていたクラスの気持ちが少しずつ変化していきます。そして「幸子」の短所ばかりを見ていたクラスメイト一人ひとりの心に、彼女の良い所が見えてくるようになります。すると、徐々に自分たちが間違っていたことに気付き始めます。「『幸子』に対して申し訳ない」「どうしているだろう」「可哀そう」「寂しいだろうな」とクラス全体が反省しているとき、彼女の唯一の理解者だった「上原さん」が「私、さっちゃんを迎えに行ってくる」と教室を飛び出します。
ここまでのなかで、子ども達が、様々なセリフで「幸子」に対する心の変化を演じるのですが、ここで注目したのは、セリフが50通り以上ある長い劇だったにも関わらず、セリフを発する子ども達の演技に照れや恥じらいが無く、完成度の高い演技をしていたことです。当然「何ヶ月も練習を積み重ねただろうな」と思うのが普通ですが…。
「上原さん」に連れられて登校した「幸子」がクラス全員に暖かく迎えられ、いじめっ子だった「くに子」が「幸子」に謝り、ハッピーエンドで劇を終えます。
最後に子ども達が全員で「あなたも友達を大切にする人になって欲しい」とメッセージを会場へ伝え、全員で歌をうたって終幕となりました。
素晴らしい劇を最後まで演じてくれた子ども達に、会場から割れんばかりの惜しみない拍手が贈られました。
会場では、観衆である親御さんたちが、感動でしばらくの間、痺れたかのように動けなくなっていました。周りを見渡すと、目を真っ赤にしたお父さんたちが立ち上がろうとする姿や、ハンカチで涙をぬぐうお母さんたちの姿が印象的で、私もやはりその一人でした。
学芸会のプログラムが終了した後、私はこの創作劇を指導した先生に会いたくなり、「驚きと感謝の言葉」を伝えるために伺いました。
脚本を手がけたのは、6年生主任教論の松川邦昭先生(42)でした。お会いした時、外間校長先生とお二人で目を真っ赤にして感動の涙を瞳に浮かべていました。
「松川先生、おめでとうございます。本当に素晴らしい劇でした。」「ところで、何ヶ月ぐらい練習したんですか?」と質問したところ、松川先生は感動で咽び、声が出せず二本指を立てました。
「たった2ヶ月で出来たんですか?」と返すと、慌てて手を振り「違います!二週間しか練習していません!」
私は耳を疑い、再度聞き返しましたが、先生は「それも、放課後一日一時間だけの練習だけだったんです。」「ホントです!」と目を真っ赤にして涙ながらに語ってくださいました。私は、驚きのあまり返す言葉を失いました。
もし本当に一日一時間の練習を二週間続けたとしても、わずか14時間です。どうにも理解し難く「子ども達が起こした奇跡」と言う他はありません。
しかし、それにしても、どうやってあれだけの演技を…? その疑問に松川先生が答えてくれました。「多分、この"さっちゃん"という劇への、子ども達の思い入れの強さが出たんです。私自身も、昨日までの練習とは比べ物にならないほど子ども達の演技力の成長に驚いています。」と。
さらに彼は続けました。「私たち6年生の担任は、これといって子ども達に演技の指導をしていません。役柄づくりも、学級会で子ども達と一緒に考えましたし、子ども達は自分たちで工夫して、1人ひとりがその役になりきって演技したのです。ホントに子ども達の力なんですよ。」
あの、息を呑むほど観衆を引き込み、自然に涙を誘う完成度の高い演技。普通なら準備に数ヶ月は掛かるだろうと思われた劇が、実はたった二週間の練習で魅せてくれたものだったとは…。
それは、子ども達が先生の書いた台本を読んで我が事のように考え、「いじめ問題」に真剣に向き合って全員で劇に取り組んだ結果、飛躍的な進歩が子ども達の演技に表れた奇跡でした。
私の小2の娘もそうだったように、この劇を間近に観た港川小学校の後輩の子ども達は、そのテーマを身近に感じ、先輩たちが「いじめ問題」に真っ向から取り組んだ素晴らしい姿を、強烈なメッセージとして感動とともに受けとめたことでしょう。
6年生121名全員が、指導にあたった4人の先生方と一緒に記念写真を撮りました。そこには、難しいテーマを扱った創作劇を成功させた喜びと自信に充ち満ちた表情が写っています。
文と写真: 浦添市社会教育委員 平 良 健 二
★次回は、この劇の模様を収めた映像と、出演した港川小6年生の子ども達から寄せられた感想などをまとめてお送りいたします。どうぞご期待ください。
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