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浦添総合病院 U-PITS
希望を乗せて離島へひとっ飛び!
浦添総合病院の救急ヘリ搬送システムU-PITS
(Urasoe Patient Immediate Transport System)
 東西に1000キロ、南北に400キロの広さがある沖縄県では、本島以外に39の離島に13万人が暮らす、全国でも有数の離島県です。しかし医師不足などから診療所がない島もあり、離島における救急医療は深刻な問題になっています。現在、救急の場合には、海上保安庁第十一管区や陸上自衛隊のヘリコプターで沖縄本島まで急病人やケガ人を運んでいるのが現状です。しかし、海上保安庁や自衛隊は、手続き上の関係で、出動要請から知事のGOサインが出るまで時間がかかるのが難点です。一刻を争う救急の現場では、少しでも時間の短縮が望まれるところでしょう。

 日本におけるドクターヘリ事業は、厚生労働省と地方自治体が費用を負担し、北海道や千葉県、静岡県など全国11ヶ所で展開されています。海や山を越え、医師と看護師が搭乗して現場へ一直線に離発着できるドクターヘリは、離島やへき地の住人にとって、まさに命綱ともいえます。しかし沖縄県は財政難などを理由に導入していません。
 


慶良間諸島(手前、渡嘉敷島)U−PITSからの空撮


 そこで、民間病院である浦添総合病院(仁愛会)が、費用を全額自己負担し、主として飛行時間が片道30分以内の周辺離島(久米島・伊是名島・渡名喜島・伊平屋島・粟国島・阿嘉島・座間味島・久高島・伊江島・津堅島・沖永良部島・与論島など)や国頭村などのへき地へ、医師と看護師を乗せたヘリコプターを飛ばして、連携する病院まで患者を運んで診るシステムU-PITS(ユーピッツ/Urasoe-Patient Immediate Transport System)を平成17年7月から始めて、搬送合計で228件(5月30日時点)と大きな成果をあげています。
 


 U-PITSは要請が入ると10分以内に出動します。4人乗りだった以前のヘリが、今年の4月から新しく導入した「EC-135-T2」では6人乗りになり、時速240キロとスピードも格段にアップしました。
 なぜ県もやらない救急ヘリ搬送システムを、一民間の病院がやることになったのか。そこには、関係者の強い熱意と人間愛がありました。


「救える命を救いたい」医師としての強い熱意から誕生したU-PITS

 救急ヘリシステムU-PITSを運用する浦添総合病院の宮城敏夫理事長は、名護市の出身です。ご尊父も医師であった関係から、名護市の医療現場の悲劇を見聞きするたびに心を痛め、故郷沖縄のためにできることをしたい、と考えてきました。医師として県立那覇病院に勤務していた頃、自衛隊の患者搬送ヘリに同乗し、県内の離島の現状を身をもって知ることになります。特定医療法人仁愛会の理事長として浦添総合病院の経営に着手してからも、仁愛会の理念である、地域住民のニーズを満たし、信頼と人間性豊かな医療を実践してきました。離島医療もなんとかしたいと思っていたところ、平成15年に救急体制の整備のために北九州の病院から浦添総合病院に招聘した井上徹英医師(救急救命センター長)が、ヘリコプターの医療活用について知識が豊富で熱意があったことがU-PITSを創設するきっかけでした。

宮城敏夫 理事長
「中央と地方、都市部と離島・過疎地の医療格差が社会問題化しており、医療に携わる仁愛会には、この状況を少しでもよくするための行動と、行政への働きかけをする責任があります。U-PITS はそうした社会的責任を果たすための理念に基づいています。
U-PITSのような事業は、『救急ヘリをやる』という強い意志のある人がいなければ絶対に成功しません。莫大な費用もかかり、また人材の確保も大切です。井上医師と出会い、私がヘリのことを言い出す前に井上医師の方からヘリの話をしたので、すぐに『やってくれ』とお願いしました。」


井上徹英 救急救命センター長
「私は長年北九州総合病院というところに勤務しましたが、その時にスイス航空救助隊(通称レガ)という組織のことを知る機会がありました。今から十年以上前になります。スイスは九州とほぼ同じ大きさで、十三の医療用ヘリ基地があり、ヘリコプターをそれぞれ配備して、何かあったら国内のどこへでも15分以内にポンと飛んでいくんですね。日本は世界第三位のヘリ保有国でありながら、医療活用となると、出動件数のみを見ても、全国でもスイスの1/10にもなっていない。大変お粗末な状況だったわけです。
以来、ヘリ活用の様々な取り組みを試みましたが、費用や手続きの問題などがあって、どうしても恒常的なシステムが構築できませんでした。縁あって浦添総合病院に赴任し、理事長から、医療専用ヘリシステムを作って欲しい、と要請されて発足させたのがU-PITSです。
これまで離島・へき地から運ばれた患者さんのなかには、搬送がもう少し早ければ助かった人もいたはずです。米軍ヘリが堂々と飛ぶなか、搬送の問題で亡くなる人がいるのは悔しい。」



一刻も早く現場へ

 U-PITSを利用する人の2割は重症度が高い患者さんです。本島内の国頭村も道路の状態から救急搬送までに長時間を要し、その内容も大量の輸血を必要とする交通事故など、重症が多いとのことです。U-PITSは、システムの改善を進め、今ではほぼドクターヘリと同様な機体と設備を有しています。出動は医療関係者や救急隊等の要請に限定していますが、ドクターヘリプログラムに見られるような厳格な要請基準などは設けず、必要と判断したら迷わず連絡して欲しいと伝えています。地域性に即した臨機応変で柔軟なシステムとして、離島や医療遠隔地の住民にとっての救急車として活用していく意向です。
 


 現在、読谷のヘリ発進基地では同院救命救急センターの医師が看護師とともに365日体制で常駐しています。EC-135-T2は世界の医療搬送現場で利用されている最新鋭の機種で、小型・低騒音ながら双発エンジン搭載で高い安全性と機動性を持った機体です。患者の呼吸の状態や酸素濃度、脈拍を監視できるモニターや酸素ボンベなど、医療器具も設置されています。機体後部からは、脚付きストレッチャーで患者を収容できます。機内はパイロット2名に医師・看護師・患者とその家族1名の計6名が搭乗可能。ヘリは有視界飛行が原則なので安全性の維持のため夜間の出動はせず、その場合は飛行のための装備に優れた自衛隊のヘリに委ねるそうです。また昼間でも悪天候の場合は飛行できないことがあります。
 


 すでに228件の実績があるU-PITS。今では毎日のように出動しています。ドクターヘリの調査からは、現場到着までの時間が短いと救命率が上がるのはもちろんのこと、病院を退院するまでの日数やその後の障害の有無などに大きな違いがあると言われています。
 現場の医療スタッフとして所定の訓練を受け選抜された8人の医師、6人の看護師が一人ずつペアとなって交代で常駐しています。
 



U-PITSの課題

 U-PITSが事業を進めるにあたり、様々な困難がありました。その一つがヘリポートです。本来ならば病院の屋上など敷地内にあるのが望ましいのですが、浦添総合病院は浦添市の住宅地にあり、また付近を高圧線も通っているため、ヘリポートの設置が無理な状況だそうです。


井上救急救命センター長
「一番いいのは例えば病院が10階建てくらいの高さがあって屋上へリポートがあるというものですね、そうすれば騒音問題も軽減できますし。でも浦添総合病院に新たに設置するのは困難なので、他に場所を確保しなければなりませんでした。沖縄は米軍基地の関係で住民にヘリコプターへのアレルギーが強くヘリポートの確保が難しいのです。なるべく市街地を飛ばないように、できるだけ海に近いところを探すようにしています。現在、発進基地は、読谷村のリゾート施設近くに、土地管理会社のご好意でそこが所有する海に面した土地をお借りして設置しています。患者さんの搬送先としては、沖縄電力のご好意で敷地内にある牧港ヘリポートを一定の条件下で利用させてもらっています。ただ、出来るだけ制限の少ない運行を確保するため、浦添市の儀間市長にお願いをして、海岸端にある市所有の土地をヘリポートとして御協力頂けることになりました。」


 
ヘリが到着次第、ヘリポートに待機する救急車へ患者を引き継ぎます。浦添総合病院の他に、県立中部病院、南部徳洲会病院、南部医療センター・こども医療センターなどの医療機関にも搬送しています。着陸先はできるだけ搬送先の医療機関の近くが望ましいので、うるま市緑地公園、病害虫防除技術センター、島尻消防本部などに離発着場を確保して活用しています。

 もうひとつの問題に莫大な費用があげられます。平成17年の導入からの2年弱で2億円近い費用を要しています。沖縄県は復帰後、陸上自衛隊の急患搬送事業が行われており、これまで7000回以上のフライトを数えます。年間の搬送実績は海上保安庁も合わせると250件以上にもおよぶそうです。これらの運行費はすべて国が負担しています。



利益の還元と、地域医療支援病院の社会的責務

宮城理事長
「U-PITSはすごくお金がかかり、何でやるの?と言う人もいますが、これは価値観の問題です。病院の利益は1/3は職員のもの、1/3は病院の設備などに使い、あとの1/3は地域のニーズがある以上地域へ還元する、というのが私の考えです。費用はかかっているけど、地域医療支援病院としての社会的責務を果たしているだけ。私は蓄財には興味がありません。県は、自衛隊や保安庁のヘリがあるのに、なんでわざわざやる必要があるのか、という姿勢です。しかし自衛隊などは出動するまでに時間がかかりすぎるし、それでは一刻を争う現場のニーズに合わない。
また国のドクターヘリは、病院敷地内からの離発着が条件だったり、患者の重症度など、いろいろな制限がある。患者さんのなかには本島の病院に入院しているけど短期であっても島の自宅に帰りたいという人とか、島で最期を迎えたいという人もいる。制限があるとそういう人のニーズに応えられなくなります。だからまずは補助を受けず自前で実施した。」

 


U-PITS救急ヘリの利用について、島民への説明会



公的支援による、安定した患者搬送システムの実現

井上救急救命センター長
「U-PITSは平成17年に地元のヘリ会社と契約して開始しましたが、平成18年7月にドクターヘリ事業の実績があるヒラタ学園と新規に契約しています。今年4月から新鋭のEC-135を導入しましたが一年間契約で1億5千万円かかります。国会へも救急ヘリの法案が提出されました。巨額の支出はいつまでも続けられるものではないし、費用面で県行政の支援を仰ぎたいと願っています。南北大東島や宮古島、石垣島などは距離が遠いためU-PITSのヘリでは対応できず飛行機を利用した方がいいのですが、ヘリ活動への補助があれば、自費拠出分を医療用小型ジェット機の導入に振り替えることができます。ヘリよりも飛行機の方が経費が安いため、十分に実現可能です。ヘリとジェット機を組み合わせて活用すれば琉球列島全体の医療搬送をカバーすることができるのです。」



 仲井真知事は、公約にドクターヘリの実現を盛り込んでおり、国や県と連携してのドクターヘリが飛ぶ日は近いと思われます。多くの人の熱意と協力で実現したU-PITSを、かけがえのない沖縄の財産として、県民はこれまで以上に温かく見守り、惜しみない協力をしていきたいものです。より多くの人の命が救われるように、離島やへき地に住む人が、これまで以上に安心して暮らしていけるように、願ってやみません。

 

 

●U-PITSに関する一般的な問い合わせ


U-PITS運行管理事務所
〒904-0327 読谷村儀間無番地「読谷ヘリポート内」
TEL 098-958-7556 FAX 098-958-7562
運行受託:学校法人ヒラタ学園 航空事業本部

または

特定医療法人 仁愛会 浦添総合病院
〒901-2132 浦添市伊祖4-16-1「救急総合診療部」
TEL 098-878-0231(代表)内線6287  FAX 098-851-5222
企業情報: 企業情報ページはこちらから
URL: http://www.jin-aikai.com/

 

掲載:2007/06/01

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