心療内科「山本クリニック」院長の山本和儀先生は豊富な知識と丁寧な診察で、クリニックは予約がなかなかとれないほど評判です。診察の外にも講演会や執筆、大学での講義、企業でのコンサルテーションなど超多忙な山本先生に、心療内科から人生の秘訣、自分で出きるリラクセーションまで、普段は聞けないお話をたっぷり伺いました。
インターナショナルな「山本クリニック」
患者さんのセルフケアを育てる「リラクセーションルーム」
Q。山本クリニックで先生が目指していらっしゃるのは?
山本クリニック 院長 山本 和儀
院内をできるだけストレスの少ない環境にしています。
駐車場も出入り口もゆったりスペース。待合室のテレビでは一般の番組を流しません。リラックスできる音楽を聴きながら癒やし系のDVDを見てもらいます。また、待ち時間を利用してリラクセーションルームを使ってもらっています。そこは照明を落とし、マッサージチェアやカプセルを置いて、アロマ、音楽、光、振動などで総合的な癒しの空間になっています。
「ここに来るだけで落ち着く、私と話すだけで安心する」と言う方もいますが、計算されたリラックス空間だからです。リラックスすることで、職場や家庭の普段の生活でのストレスに気づいてもらい、ストレスマネジメント力を高めてもらう。病気の治療は医者がしますが、再発予防は本人の力です。ストレスをうまくマネージメントする力、つまりセルフケアが重要なのです。
マッサージチェア
カプセル
メンタルに悩む現代人が激増!
心療内科の患者は驚くほど増えています。県内で毎年二、三軒ずつメンタルクリニックが開業しますが、まだ十分ではなく、予約して二週間、一カ月待っていただかなくてはなりません。
私は県の教育委員会の健康管理審査委員をしており、長期間休職した先生方の復職判定に関わっています。そのデータを見てみますと、平成元年と平成十八年では三カ月以上の長期間休職する先生は二倍に増えています。その中でメンタルな理由で休まれた先生方の数は、じつに五倍から六倍と、激増です。
なぜなのか私なりに分析してみました。1つの側面にしかすぎませんが、つぎのようなことも考えられます。
地域社会は学校に今も高い期待を寄せていますが、逆に支援する気持ちは乏しくなっていると思います。したがってクレーマー化する。都市化した地域では、家族が孤立し、しかも多様な価値観を持ち、それをストレートに学校にぶつけてくるからです。しかも親達も高学歴で、教師という仕事への敬意や威厳が昔ほどはない、つまり教師が昔ほど尊敬されてないのです。先生方は多忙を極める中で、生徒や父兄、同僚、上司への気遣いも多く、大変な時代だと思います。
県の調査によると、心療科の入院患者は平成元年と十八年では大きな増減はありません。しかし通院している患者さんの数は、1万人から3万人へと大幅に増加し、心療内科・精神科の医療機関を利用している患者さんの数は現在、県民の三十七人に一人もいる、時代となっています。
どうしてこんな時代になったのか。労働形態が、全身を使う筋肉労働から身体の一部や頭脳を使う労働になったことに大きな原因があると考えます。身体の疲れは一晩寝るとたいがい取れますが、精神的疲労は寝ても取れない、それどころか疲れすぎると眠れなくなったりします。
ストレスを負った人を支える社会のサポート体制も弱くなりました。人々は個人主義的で、核家族が増え、地域でも職場でも支え合えなくなっています。会社も成果主義を取り入れたり、労働形態が正規雇用から派遣や契約社員となりました。様々なストレスを増す条件が重なり合っています。
インターナショナルな視野で外国人の診療
私は琉球大学医学部に勤務していたとき、東南アジアやオーストラリアの現地で生活している日本人、いわゆる在留邦人のメンタルヘルスを研究し、学会の仲間と一緒に在外公館と連携して、支援してきました。約100万人の日本人が海外で外国人として暮らしていて、文化的な葛藤によるストレスから、現地の人と違った診療が必用になっていました。
同じことが、県内在住の外国人、留学生として、あるいは日本人の妻や夫として定住している方などにも言えます。しかし英語で診療が受けられる医療機関が少ないのです。
そこで。私どものクリニックではバイリンガルの方針を打ち出しています。外国人の患者さんは週に2人と少ないですが、看板やホームページ、パンフレットは日本語と英語の表記。スタッフもバイリンガルを雇っています。
ロビーでは待ち時間をリラックスできる音楽を聴きながら 癒やし系のDVDを見ることができます。
文化の違いを取り入れた医療サポート
国によって医療の仕組みが違うのが、大変興味深いです。
ラオスは人口500万人ですが、精神科医はたった2人しかいません。人口135万人の沖縄には精神科医は200人以上。また精神科のベッド数がラオスは15床、沖縄は5千6百床。この国に日本と同じシステムを作り、同じような診察をすればいいとは言えませんよね。私は医療先進国であるカナダ、オーストラリア、現在大きく伸びているタイやマレーシアなどの精神医療を視察してきました。そういう経験や視点から、アドバイスが出きるのではないかと思って、JICAの教育プログラムをお手伝いさせていただいています。
医療費の額は当然、国によって差がありますが、そのうち精神医療にどれだけ使うかにも国によって大きな差があります。
日本は全医療費の5.6%を精神医療に使っています。それがラオスなどの発展途上国になると1%以下。メンタルヘルス先進国のニュージーランドでは10%、オーストラリア7%という統計が出ています。
WHO(世界保健機関)と世界銀行の推計では、全ての疾病による経済的負担のうち、精神疾患による負担が現在の13%から、2015年には15%に増えると予測しています。発展途上国でも精神疾患の負担は増加傾向にあり、全医療費の少なくとも2%は精紳医療費に回していただきたいと、世界精神保健連盟(WFMH)の活動を通し、WHO西太平洋地区委員会の場などで訴えてきました。しかし、そういう地域で近代医学の充実だけが必要と決めつけていいのか。
東南アジアなどの発展途上国からの研修生に対する講義の中で、私は沖縄のユタも紹介します。ユタなどの伝統的ヒーラーの方が上手に患者さんを応援してくれる場合も多いのです。発展途上国では、民間医療を排除するのではなく、近代医学とどう連携をするか、うまく活用して共存できればよいという提案もしています。
遅れている性同一性障害の研究
最近やっと注目されるようになった性同一性障害(GID)に、私は十年前から取り組んでいます。今年8月、那覇で新聞社主催のシンポジウムが開かれ、シンポジストの一人として参加しました。
その人の心の性意識(ジェンダー)が望む方向を医学的に支援してきました。これまで、性同一性障害の患者さん達は、心と体の性の不一致の悩みを隠して生活していました。自分は変な人なのだと思ってずいぶん苦しんだ方も多かったと思います。決してそうではなく、医学的支援を必要とする方々が多くいらしゃるのです。
現在までに、当院で相談をした性同一性障害の方は100人を越えています。日本ではホルモン療法や、手術療法に医療保険が適用されず、医療機関も整備されず、この問題をずいぶんなおざりにしてきました。国際的にみて、いまだに対応が遅れています。治療的研究を進めながら、社会的支援を組織化するというのが私の立場ですので、今回のシンポジウムで、性同一性障害の問題が、クリニックを超えて、沖縄県の社会全体で考えて支援していく方向に動き始めたのは、大きな喜びです。
社会人の心の健康をサポート、「できる社員」の育成
EAP(Employee Assistance Program 〜従業員支援〜)
Q.山本クリニックの建物2階にあるEAP産業ストレス研究所。
こちらの仕事について教えてください。
EAP産業ストレス研究所内
従業員の心の健康問題の解決を支援するサービスを提供する所です。
社員のうつ病やアルコール依存症などのメンタルな問題、職場のストレスや人間関係の問題、離婚・夫婦問題などの解決を支援し、従業員の仕事遂行能力、パフォーマンスを高め、会社を元気にするお手伝いをするわけです。このEAPは、心の健康を重視したアメリカで始まり、日本の企業も取り入れ始めました。
私は琉大病院に勤めていたときから、社外産業医として会社の社員のメンタルヘルスに関わっておりました。講演会やコンサルティングをして、沖縄でもEAPの重要性を強く感じていました。2004年7月に、実は山本クリニックより先にEAPを作ったのです。
企業と契約をして、教育研修、社員研修、ストレスチェックと改善策の提言、経営者への啓発などを行います。経営者の啓発とは、社員がメンタルな問題を抱えたとき会社や上司がどう対応するか、どのような社内体制を整備するかについてのアドバイスなどです。
カウンセラーによるカウンセリングも行います。なにかメンタルの問題があったときに早期に発見できれば、医師に早く相談し、早く治っていただけるわけです。
クリニックの仕事とEAPの仕事を私は分けています。水曜日はクリニック休診にして、EAPの仕事を集中して行っています。
クリニック=医療、EAP=非医療のコンサルティング。もちろん医者ですから、医学的知識を利用してのコンサルティングとなります。
山本和儀の魅力に迫る!
Qこんなに忙しい仕事をこなす先生自身のメンタルヘルスのコツ、あるいは山本流仕事成功の秘訣を教えてください。
「選択と集中でトップランナーを目指したい」
私の座右の銘がこれです。これはみなさん方、企業の成功の秘訣と重なっていると思います。
まずこの「選択と集中」。私はいろいろな仕事をしているように思われていますがそうではなく、三つの分野に私の力を集中させていて、その分野でのトップランナーを目指しています。
私の三つとは、「性同一性障害(GID)」、「産業メンタルヘルス」、「外国人のメンタルヘルス」です。広く浅くなんでもしますというのではトップランナーにはなれません。選択すること。そして、そこに自分の力を集中させることです。専門の1つである、老年精神医学については、敢えて積極的には取り組まないようにしています。
さて、三つ選ぶというのは「経営戦略」ですね。一つに集中してしまうと、時代の流れや何かでその分野が停滞して動かないことがあります。
十年前から性同一性障害と外国人のメンタルヘルスに取り組んできました。しかし、これが重要な問題だと本当に認められるようになったのは、ご存知のように最近になってからです。もしそこにだけに私が集中してきていたら、研究も仕事も停滞し、私は活力を失っていたでしょう。その間は三番目のテーマである、企業のメンタルヘルスに力を入れ、「性同一性障害」や「外国人のメンタルヘルス」は研究対象として、またライフワークとして地道に取り組んできました。
このように三つの専門分野を持っていると、三つの中のどれかがいつも元気に動いてくれる。これが元気企業のコツです。
「境界を越える」のが、精神科医の役割
次の私のポリシーは「トランス」、つまり境界を越えるということです。自分の居る所から、境界を越えて、新しい所へ行き、そこで理解し体験したことを持ち帰ること、正常と異常、日本と外国、男と女、境界の両側を行き来するのが、精神科医の役割だと思っています。
そして既成の分野に捕らわれず隙間を発掘し、そこに目を向けていく。他の人が目をつけない分野であることが多いので、そこで新しいことを学びながら仕事を続けていくと、私が「第一人者」になることができます。「性同一性障害」はまさにそうでした。もちろん利害のために目をつけたというのではないですよ。誰も目を留めなかった分野でしたが、患者さんは必死でした。悩んでいました。研究者、理解者、そして医者が必要だった。十年たった今、社会の方々にも理解されるようになり、私が大事な問題に取り組んできたことが、証明されました。
「ネットワークの中で解決」
企業で働くみなさんにも言いたいことです。
自分で全てを抱え込まないで、ネットワークのなかで解決しましょう。「性同一性障害」をまた例にとりあげて話しますと、先月のシンポジウムでも提唱しましたが、精神科だけ、あるいは自分のクリニックだけで抱え込まず、婦人科、泌尿器科、美容外科、形成外科のドクターともネットワークを作り、さらには養護教諭や、マスコミなどとも連携することで、自分たちのクリニックだけでは解決できない問題を、地域社会全体で解決する方向で発展させることができます。
「私がストレスに負けないこと」
私どもクリニックでは、患者さんを私自身が待合室まで呼びに行くんです。患者さんにも好評ですが、なによりも私自身、ちょっとした休息にもなります。その短い時間にストレッチし、気分を切り替えて、次の患者さんを迎える仕切り直しをしています。
とても忙しい。でもそういう私自身がクリニックのスタッフにストレスを与えないよう注意はしています。チームで仕事をするときは、段取りをよくすることが大事です。
しかし、日々の忙しさの中でスタッフについムリを言うこともあります。それを素直に聞いてくれて、手際よくやり遂げてくれるスタッフには、感謝の気持ちでいっぱいですね。素直で、柔軟な対応。「ありがとう」は本人にも周囲の人にも、ストレスを減らす魔法の言葉です。
高い理想や目標を持つのは良いけれど、それによって自分自身や周囲に無理難題を要求するのはどうでしょうか。現在の状況の良い面に目を向け、日々の生活に感謝の気持ちがあればストレスが減ります・・・、なんだか宗教の教えに近いですね。
忙しいときは十五分単位のスケジュール
クリニックでの昼休みは、たいてい一時十五分からの四十五分間です。その間に、十五分で昼食をすませ、十五分昼寝をする。五分間でも目をつぶります。大抵一時四十五分にお客さんとの面会の約束を入れてありますので、スタッフが起こしにきてくれます。一時四十五分に約束というのがミソです。私の時間が二時までの十五分間しかないとお客さんも気が付いて、手っ取り早く用件をすませてくれます。客の面会でウォーミングアップして、二時からまた午後の診療に取り掛かれます。
休日は切り替え日、バカンスもしっかり!
休日は日曜日だけですが、完全に休日にするようにしています。
家族とリゾートへ行ったり、ドライブや小旅行。年に二回は一週間程度の長期休暇をとり、海外に行きます。メリハリのあるスケジュールをたてて、オンとオフの切り替えをするようにします。オフの楽しみに向けての努力が、また楽しみです。
また時間を見付けてなるべくジムに行くようにしています。週一回くらいしか行けていませんが、夜十時からでも時間が空いたら行くようにしています。体のストレッチと心のリフレッシュ、疲れにくい体力造りのつもりで、やっています。
<特別講座>
切り替えとリラクセーション
頭の中に問題がいつも引っかかっていて、考え込んでしまう。忘れなさいと言われても、そう簡単には忘れることができるものではありません。
そのとき一番手っ取り早いのは別の感覚に転換すること。たとえば運動や、音楽、歌を歌い、身体を使うことがお勧めです。映画を見るのもいいですね。
そして全ての物ごとには、悪いことばかりではなく、良い面も悪い面も、両方あることを知ってください。失業された患者さんが、「失業して確かに貧しくなりましたが、逆に少ないお金を工面して家族と一緒に食事をする幸せと喜びを見付けることができました」と話してくれたことがありましたが、こういう考え方ができるのは素晴らしいですね。
悪いことばかりに見える事柄にも、良いことが必ずあるのを発見する力を養えれば、どんな荒波社会も乗り越え、イキイキと人生を楽しむことができます。
最後に呼吸法をお教えしましょう。緊張しているとき、呼吸が浅く速く、十分に酸素を取り込んでいないことがほとんどです。
まずゆっくり、ゆっくりと、息を長く吐いてください。吸うのは短くても、吐く呼吸を意識して長くします。腹式呼吸もしてみましょう。お腹に手を置いて息を吐いたときに、お腹がへこむのを感じてください。横隔膜を使った腹式呼吸です。これも吐く息を長くします。それができないときは、三秒間息を吸って三秒かけて吐く、それを繰り返すだけでも落ち着いてきます。
コラム
山本先生の
授業風景
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★JICA教育研修プログラム(沖縄国際センター)
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沖縄国際センターの海外の保健医療担当者研修。
東南アジアの研修生二十五、六人が、毎年一週間教育研修に沖縄を訪れます。私はメンタルヘルスの講義を3時間担当し、クリニックの施設も見ていただいています。
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★大学、大学院で講座
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琉球大学医学部や沖縄国際大での講義、大学院生の研究のサポート、研修医や学生の実習も大事な社会的役割だと考えて、応援しています。
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★港川中学校職場体験学習
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港川中学校の2年生が山本クリニックに職場体験に来ます。今年も三日間、三人を受け入れました。「どうしてこの仕事を選んだのですか」と職員ひとりひとりにインタビューし、掃除を手伝ってくれたり、診察を見学したり。心理テストを試してもらい、心の健康についての話しも聞いてもらいました。
体験後のレポートに、「将来は音楽療法士になりたい」と書いてくれた子がいたのは、将来の職業を真剣に考えてもらうきっかけになったと思い、嬉しかったですね。
山本クリニック
【住所】浦添市伊祖2-30-7 ОAZОビル1階
【電話】 098-879-3303
【FAX】 098-879-3309
【企業情報】 企業情報ページはこちらから
【URL】 企業ホームページはこちらから
【マップ】
<スタッフ>
医師1名 心理療法士1名 カウンセラー&精神保健福祉士1名
看護師2名(1名はパート) 医療事務1名
山本和儀先生
<プロフィール>
- 熊本大学医学部卒業
- 同付属病院で研修、国立療養所菊池病院、沖縄県立宮古病院勤務
- 琉球大学医学部付属病院精神科神経科講師&総合診療センター副センター長を経て2004年7月EAP産業ストレス研究所設立
- 同10月心療内科山本クリニック開設
資格/労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、日本心療内科学会登録医
精神保健指定医、日本老年精神医学会認定専門医、医学博士
主な役職/沖縄産業メンタルヘルス研究会代表世話人 等
院外での主な仕事/独立行政法人労働者健康福祉機構・沖縄産業保健推進センター基幹相談員 等
趣味/あまりないなあ そうだな、読書と旅行ですね
家族/妻と5歳の長男
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