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トップ >> エッセイ >>空の楽しみ(2) 〜機中の楽しみ〜

エッセイ - 空の楽しみ

井上徹英 (いのうえてつひで)

(浦添総合病院 院長)

山口県岩国市出身 医学博士
広島大学医学部卒業後、救急医、麻酔科医として北九州の病 院に長く勤務し、平成15年に浦添総合病院に赴任。院内改修 事業や救命救急センター創設、ヘリ事業などに携わり、副院長 を経て平成20年4月に同病院院長に就任。
趣味は日韓問題研究や現代思想史研究で、猪木正道氏の評 伝などの著書がある。

機中の楽しみ

 飛行場の楽しみについて書いたので、今度は飛行機の中の楽しみについて書かなければならないだろう。

 今、この文を書いているのは、ワシントンから成田までの機内である。成田までの飛行時間は13時間16分。横になることもできず、すし詰めの機内の狭いシートにただひたすら座って時間を過ごすのに楽しみなどあろうはずはなく、むしろ拷問に近い。「機中の楽しみ」と題したものの、それで楽しみがあるなら私が教えて欲しいぐらいである。外国の航空会社なのでせめて金髪美人のキャビンアテンダント(CA)にワクワクしてというのはあるかも知れないが、残念ながら我が客室担当のCAの二人は屈強そうな男性で、後の二人は、金髪は金髪でも少々白髪交じり。かいがいしく働いていて愛想もいいが、国際線勤務を気の毒に思いこそすれ、ワクワクさせてもらうにはちょっと無理がある。

 今回の旅の目的はフロリダのオーランドで開催された世界のビジネス機の展示会で医療用にどういう機体が使えそうかについて実地に色々見てみることであった。さまざまな小型飛行機が展示してあり大変興味深いものがあったが、ヘリコプターと飛行機の特性をあわせもったチルトローター機の展示は人気を集めていた。現段階では未亡人製造機とも揶揄されるほど完成度が低いが、将来の医療搬送はこれが主流になるであろう。小型飛行機の場合は狭いドアから患者さんをどのように収容するかが課題になるのだが、写真はその工夫の一つ。色々な知恵を使うものではある。


 さて、それはさておき、私にとっての機中の楽しみは何といっても外の景色である。したがって席を取る時はできるだけ窓側に取るようにしている。

 紺青の空と白く湧きあがっている雲とのコントラストは実に美しい。夕には白い雲を赤黒く染めて夕陽が沈む。ずっと以前になるが、カリブ海に浮かぶハイチを訪れる時に見た夕焼け雲は、随分遠くまで来たという感慨もあい交えて今も強く心に残っている。ヨーロッパ路線に乗っている時に一度だけオーロラを見ることができた。薄暗い中にボーッと浮かぶ光のカーテン、これは美しいというよりもむしろ神秘的と表現した方がしっくりくる。

 陸地の風景もまた味わい深い。雪で白く覆われたシベリアの大地はただ綺麗に見えるだけで生活感はないが、よく見ると、ところどころ細く曲がりくねった道があり、人の痕跡が感じられる。かつて多くの日本人がここに抑留され過酷な環境の中で重労働に従事させられ多くの人が命を落とした。戦後生まれの私にはそのことを肌で感じることは難しいが、抑留されていた伯父からわずかに漏れ聞いた悲惨な状況には、その時代に生まれなくてよかったと思うばかりである。「異国の丘」は抑留兵士の思いを唄ったものだが、何も知らずとも何かを感じさせられる。

 唄と言えば、機内の音楽番組もひとつの楽しみである。私には高尚な趣味はなく歌謡曲を好んでいる。9月の全日空のプログラムには、「♪ 街のどこかに 寂しがり屋がひとり」という「真夜中のギター」が取り上げられていて、何とも懐かしい思いで聞き惚れてしまった。千賀かおるさんが歌って大ヒットした曲だが、当時私は高校生で、沖縄はまだ復帰前である。この曲だけで消えてしまったのは残念であるが、千賀さんは沖縄とも縁が深い沖永良部島出身で大ヒット当時は郷里の人達に大変喜んでもらったらしい。

 沖永良部島と言えば、飛行機から見える美しい島のひとつである。沖縄本島を出るとき戻るとき、ヘリコプターあるいは飛行機から、どんな島がどのように見えるか、機を改めて書いてみたい。

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第1回

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第3回

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第4回

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第5回

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第6回

>> 【特別インタビュー】 救急ヘリ搬送システム「U-PITS」 2007年6月掲載

掲載日:2008/10/15

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