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トップ >> エッセイ >>空の楽しみ(5) 〜沖縄で見ることができない風景〜

エッセイ - 空の楽しみ

沖縄で見ることができない風景

- 第5回 -

井上徹英 (いのうえてつひで)

(浦添総合病院 院長)

山口県岩国市出身 医学博士
広島大学医学部卒業後、救急医、麻酔科医として北九州の病 院に長く勤務し、平成15年に浦添総合病院に赴任。院内改修 事業や救命救急センター創設、ヘリ事業などに携わり、副院長 を経て平成20年4月に同病院院長に就任。
趣味は日韓問題研究や現代思想史研究で、猪木正道氏の評 伝などの著書がある。

沖縄で見ることができない風景

沖縄で見ることができないものと言えば、そのひとつは雪である。

「一面の銀世界」とは雪で覆われた様を表現するし、「白い恋人たち」は札幌で行われた冬季オリンピックのキャッチフレーズである。雪は綺麗でロマンチックな反面、現実には大変に迷惑な面もある。いいも悪いも沖縄は雪と縁遠いが、沖縄の女性の名前に雪が使われているのを不思議に感じて尋ねたところ、「今ほど気軽に行き来できなかった時分に、見たことがないだけに、神秘的で美しいものとして多くの人があこがれたんですよ」とのことであった。

沖縄の島々では写真のような風景を見ることはできない。つい先般に島根県の隠岐を訪問した際にフェリーの甲板で寒さに震えながら撮影した知夫里島である。

国内には離島を擁している地域は多くあり、沖合80kmに浮かぶ人口2万人以上の隠岐の医療をどう守っていくかというのは島根県の大きな課題のひとつである。隠岐は慶良間のような群島になっていて、島後(どうご)が最も大きな本島、それに島前(どうぜん)と呼ばれる3つの有人離島と多数の無人島がある。島後には手術もできる病院があるが、重症対応は無理で、必要な際には県が保有するヘリコプターが内地の基幹病院に医療搬送を行い、その数は年間60回を超える。

隠岐訪問の時は雪に迎えられ、飛行機の欠航のため帰途はフェリーで5時間かけて戻ったが、離島の厳しさを改めて知るいい機会となった。翌日はフェリーも欠航し、島前に残った同行者は島後まで海上タクシーで移動してかろうじて隠岐から飛んだ航空便で大阪を回って沖縄に戻るはめになった。案内してくれた島根県のかたは荒れる海での船酔いを心配して下さったが、日頃ヘリに乗っているだけにその点は三人とも平気で、妙な感心をされてしまった。

出雲空港も雪で覆われ当日は欠航になったものの、さすがに翌日は滑走路に除雪と融雪が施され私は福岡経由で沖縄に戻ることができた。写真は雪の出雲空港に着陸するサーブ340Bである。沖縄航路では飛んでいないため那覇空港でこの機体を見ることはできないが、双発ターボプロップのスゥエーデン製のこの飛行機はその信頼性の高さからYS-11の後継機として多く使われている。プロペラ機であっても時速500kmで飛ぶ。

余談ながら、雪以外にも、沖縄にないものとして鉄道をあげることができる。戦前には軽便鉄道があったが今はない。戦災による荒廃と長期の米軍の占領によりインフラの整備が十分にできなかったことは、内地出身で今は沖縄でお世話になっている者として胸が痛む。写真は線路が雪で覆われた松江駅である。こういう風景を沖縄で見ることはない。

雪国ではないにせよ、瀬戸内地方で育ち北九州で長く過ごした私ですら年に何度か降り積もる雪には泣かされた。沖縄には雪がないが、台風というやっかいな自然がある。それでも、沖縄はやはり住みやすいところだと改めて感じた雪中の隠岐行であった。

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第1回

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第2回

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第3回

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第4回

>> 【エッセイ】 空の楽しみ 第6回

>> 【特別インタビュー】 救急ヘリ搬送システム「U-PITS」 2007年6月掲載

掲載日:2009/1/21

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