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「有機農法と家庭菜園」 -食の安心・安全と確保について- (前編) 「ビジネス・モール うらそえ」開設満10周年記念企画

災害はいつ襲って来るか分りません!備えは大丈夫ですか?米や缶詰などはストックできますが、生鮮食料品類、特に野菜類は数日の間しか持ちません。かといって輸入物の生鮮物は安心・安全の面で気になります。私たちは、食の確保をどうしたら良いのでしょうか?今回、沖縄県有機農業普及会会長であり、琉球大学農学部 名誉教授 農学博士の諸見里善一先生に伺いました。

仙台空港近く
津波の海水が残り使えなくなった釜石の農地(手前は津波が届かず助かった上流地の畑)

 

近年、大規模な自然災害などで野菜産地が被害を受けスーパーに並ぶ野菜が激減し食卓の野菜が急騰しました。又、世界中が政情不安の中にあり、経済でもTPPが有名無実化し、自然、政情、流通においていつ何が起きるか分からない状況にあり、食の確保はきわめて重要な課題です。

さらに、福島原発放射能汚染の影響や高濃度の薬物混入が疑われる輸入生鮮食品などに対する安心安全に国民、消費者の関心が非常に高まっております。

それらを踏まえた上で今後の「食の安心・安全と確保について」食料を作る農法を研究されているお立場からお話を聞かせて頂けませんでしょうか。

 

1.安心・安全な自然農法と有機農法の違い

Q) 諸見里先生、まず、自然農法と有機農法の違いから 読者に説明して頂けますでしょうか。

諸見里 善一 氏 農学博士

( 琉球大学農学部 名誉教授 )

A) そうですね、違いを言うよりむしろ共通点の方が多いのです。


「自然農法」
というのは“有機農法の究極”と言った方が理解しやすい。


自然尊重、自然順応を基本にする農法
で、

手段として耕さない、肥料も入れない、雑草を共生させるなどの方法を取り入れたものが自然農法です。

 

ミニトマト草生栽培 (自然農法) 下草との共生
トマト草生栽培 (自然農法) 雑草と共生しているのが良く分かる!

それに対して

 

「有機農法」には2種類あり、一つは一般によく知られる、①「出来るだけ自然農法に近づけた農法」自然にある落ち葉の肥料(腐葉土)、堆きゅう肥、米ぬか等の自然物に手を加えた肥料を使うが、化学合成肥料は一切使わない。

そして、病害虫対策にも化学農薬を使わず、自然に在るものに手を加えた方法(例:天敵生物の活用等)で対策をします。

有機農法で作られた キャベツ畑

 

もう一つは、②「特別栽培」と言って大量に作物を栽培生産するために必要最低限の化学合成肥料を使うが、通常使用農家が使う基準の半分(50%)以下に限定して使用し栽培する農法も有機農法に含みます。(「特別栽培」は環境保全型農業とも呼ばれる)

「特別栽培」のたんかん(表示シール) (裏:説明表示 シール)
出荷

 


沖縄県有機農業普及会 会長  諸見里 善一 氏 (琉球大学農学部名誉教授 農学博士)

 

2.有機農法と慣行農法との違い

 

Q)慣行農法とはどういうものですか?有機農法との違いを教えて下さい。

 

 

慣行農法と有機農法とは対局である

 

A)「慣行農法」とは慣れ行うと書きますから、今主流に行われている農法のことで、現在の有機農法とは対局にあり、

化学合成肥料を使い作物を育て、病害虫対策に化学農薬を使用する現在殆どの一般的農家が行っている化学農法のことです。

化学合成肥料・農薬を使った現在の慣行農法は戦後始まったもので、戦前の慣行農業は化学合成肥料・農薬を使わない有機農法であったが、人糞等を肥料としていたことから回虫などの寄生虫がいるため野菜を生で食べられませんでした。

戦後、化学合成肥料・農薬などの散布から回虫などがいなくなりサラダとして生野菜が食べられるようになったのです。

戦後の慣行農法である化学合成肥料・農薬の利点というのは有機農法に比べ即効性があり、撒いたらすぐに効きますから病害虫を確実に防除できて、美味しい作物が出来る、そして大量生産が可能となったことです。

 

通常農家の農薬散布風景

 

 

3.慣行農法(旧い有機農法)-慣行農法(化学農法)-新しい有機農法の歴史

Q)以前の慣行農法(有機農法)が現在の慣行農法(化学農法)に変った経緯と、現在の新しい有機農法までの変化の歴史をご説明願えますか。

慣行農法(化学農法)の現状

 

A)まず、慣行農法とは現在行われている農法の主流を指します。

 

現在、世界で行われている99%以上の農法が化学合成肥料・農薬の殺菌剤、殺虫剤を使った化学農法が慣行農法です。

 

それが主流なのです。

 

 

 

トラクターでアルファルファ畑を耕す様子1921年頃(米国)

米国では1920年代頃から化学農法が始まり約80~90年経ち、

 

日本では遅れて戦後に始まり約60~70年の化学農法の歴史となります。

 

近代の新しい有機農法は未だ1%に満たないので世界的に見ても有機農法を50%もやっている国など絶対ありません。

それくらい近代の新しい有機農法は未だマイナーな農法で始まったばかりなのです。

 

 

キューバ たばこ畑 (有機農法)

ところで、世界で1番多く新しい有機農法を行っている国は何処かご存知ですか?

それは「 キューバ 」なんです。

キューバはソ連の崩壊後、ロシアから化学合成肥料・農薬が入らなくなったために有機農法に切り変えざるを得なかったのです。

それでも20数%くらいの普及ですが「有機農法はキューバに学べ」という格言があるくらい世界では有機農法の先進国なんですね。

 

 

農業の始まり(有機農法)

 

農業の歴史は1万年前に始まったといわれ

 

メソポタミア文明、今のシリア周辺の肥沃な三日月地帯で農業の痕跡が見つかっており、

 

小麦が栽培されていたことが考古学的にわかっています。

 

「古代農業」の壁画 紀元前1200年頃
古代エジプトの農業の絵 (小麦収穫風景)

 

人間の歴史が15万年と言われていますから、

はじめの14万年間は狩猟・採取生活をしていたわけです。

しかし、1万年前から世界各地にメソポタミア、エジプト、インド、黄河等の文明が次々に誕生し、

同時に農業も時をほぼ同じくして始った訳です。

自然に生った木の実や果実を採取していた生活が、

種を捨てた場所から芽が出てきたので、

“では積極的に作ろうじゃないか”、という発想が農業なのです。

農業とは「自分で植えて増やす」という能動的な食料生産法です。

 

 

 

腐葉土(ふようど)

日本では山から枯葉を集めて自然の肥料を使った有機農法が古代から戦前まで行われて来た

 

化学農法への移行

 

ですから、1万年前~日本では約60~70年以前まで100%有機農法を行っていたわけで、

その頃の有機農法は金肥(化学肥)が買えず


自然の肥料(人糞や腐葉土等)を使い、山から枯葉を集めて肥料としていました。

 

戦後、日本も工業化し、

農業も化学合成肥料・農薬を使った化学農業、現在の慣行農法に移行してきた訳です。

 

昭和の高度成長期時代 食料増産のためヘリコプターを飛ばし

畑に農薬を撒き始めた。

 

大規模農家は農薬を機械で散布 小規模農業は農薬タンクを背負い農薬を散布
葉野菜も大量生産できる様になり、化学合成農薬もまんべんなく撒ける工夫が進んで行った
垣根につるを伸ばして育つ茄子科のトマト等の野菜に農薬を散布し害虫から守る 最近ではドローンが農薬散布に使われ便利になっている

 

そして、現在の慣行農法(化学農法)は以前の1万年続いた慣行農法(有機農法)に比べ僅か約80~90年で世界に普及し、99%が現在の慣行農法(化学農法)を行っています。

これには短期間に広がった大きな功績の理由があります。それは、

①肥料の即効性、
②病害虫の殲滅、
③美味しい物が作れる、
④大量生産が可能

といった内容の利点の功績があるのです。

 

沖縄での化学農法の始まり
沖縄では豊見城から化学農法が始まった。豊見城は昔から野菜の産地で農業が盛んでした。
戦後、米軍統治下におかれた沖縄で米軍族はステーキの肉と生野菜のサラダを食べるため米軍政府から地域を指定するから化学肥料を配り、糞尿などの肥料を使わず化学肥料を使った野菜栽培を推進させたのが始まりでした。以前は、戦前までの有機農法でしたので回虫などの寄生虫が発生するから野菜は生で食べられませんでしたが、化学合成肥料・農薬の広がりで食すことが出来る様になり、これが一般に普及してきたのです。

美味しくサラダとして生野菜を食べれるようになった!?

 

 

有機農法の再認識と新しい有機農法への取り組み

ところが、慣行農法も余りに化学合成肥料・農薬とかを使いすぎて問題が出てきた訳なんですね。

善玉菌の乳酸菌
化学農薬の使い過ぎが土壌の中から

善玉菌を消してしまう例。

(ウズベキスタン・ホラズム州に広がる砂砂漠)

ソビエト連邦時代に農薬の大量散布や川をせき止めて行う灌漑農業は大規模な健康被害や土壌の荒廃砂漠化の環境問題をもたらした。

Photograph author Shuhrataxmedov

「寄生虫は無くなったが、果たしてこれが食べて安心かどうか?」という問題なのです。

 

 

例えば、化学肥料は植物が効率よく吸収できていいのだけれど、

 

そこに住む微生物が一番必要な炭素源を含まない化学肥料を利用できない。

 

 

微生物は炭素源を含んだ有機物しか分解・利用できない、

 

だから微生物相がしだいに貧弱になってきてしまった。

 

要するに、良い微生物(善玉菌)が土の中に食べ物がなくなり減少していくと言うことです。

 

 

悪玉菌の大腸菌
アトピー性皮膚炎(子供の症例)

 

農薬飛行機 空中散布

 

それで、害を及ぼす悪い微生物(悪玉菌)は土の中に敵が居なくなり植物を食べ寄生するようになり、

 

それを食べた人間がアトピー性皮膚炎等の病気を発症するようになったのです。

 

病原菌からすると敵はいない、食べる物はあるという状況が病原菌を繁殖させてしまい、

 

それを食べた人間がこれまでになかった様々な病気を発症してしまっているのです。

 

病害虫防除のため化学農薬を使ったことで一時的に病害虫などを殺すのだけれども、

 

これによって自然が破壊されたり、有用な微生物まで殺してしまい。

 

 

病害虫を死滅させるために行っていた農薬散布が 何度も繰り返し行っているうちに病害虫を増してしまうという皮肉な結果となったのです。

 

 

 

 

 

 

米国では1962年に出版されたレイチェル・カーソン著書の「サイレント・スプリング」

 

「サイレント・スプリング」 日本語訳 「沈黙の春」

日本語訳「沈黙の春」DDTを始めとする農薬などの化学物質の危険性を、鳥達が鳴かなくなった春という出来事を通し訴えた作品が発売されて半年で50万部も売れ高名な合衆国最高裁判所判事のウィリアム・O・ダグラスの推薦文が同封されベストセラーとなった。
これを当時の合衆国大統領であるケネディ大統領が読んだのです。

J.F.ケネディー大統領


あまりにも化学肥料・化学農薬に頼り過ぎたこれまでの農業に警鐘を鳴らした生物学者からのメッセージを受けてケネディ大統領が動いたのです。


今のトランプ大統領を見ていて分かりますけれども

 

合衆国大統領の権限というのは凄いですよね。

 

議会制民主主義と違って大統領のサイン一つで

 

簡単にこれまでの政治の方向性を変えてしまう訳ですから、

 

恐らくその時もケネディ大統領が流れを変えたのでしょう。

 

それから、化学農業というのは環境汚染や病害虫の発生等から人体に与える病症発生の問題を生じさせるという事が次第に分かり、この事で改めて“ 有機農法 ”が見直されて、「以前の有機農法に代わる新しい有機農法が検討された」のです。ですから、化学農法の慣行農法に最初にマイナス面がある事に気付いたのは米国なのです。

自然農法で栽培されたマンゴー草生栽培

 

他にも1939年出版アメリカ合衆国の作家ジョン・スタインベック著書「怒りの葡萄」という小説があり「農薬や化学肥料を撒きすぎたために土壌に微生物が居なくなった土地が荒廃し砂漠化して行き、所有地が耕作不可能となって流民となる農民が続出し、社会問題となっていた」事を風刺した小説です。

この小説により、スタインベックは1940年にピューリッツァー賞を受賞しました。後のノーベル文学賞受賞(1962年)も、主に本作を受賞理由としています。映画も制作されアカデミー賞を2部門受賞しています。この頃から米国では化学農業への危機意識が高まっていたのです。

最後に

人口100億人を超した世界の人々の食を支えるのは慣行農業を主にしないと駄目かもしれません。しかし、そこから起きた様々な問題をそのままにしていていいかと言うと、それもいけないと思っています。米国やカナダに約20万人いるアーミッシュの人々の自給自足的生き方は自然農法そのもの。古きを温(たず)ねることも必要です。今、有機農法が見直され再認識されています。
これが有機農法の歴史で慣行農法はずっと短かったと言えます。

アーミッシュでは独自の自然農業を行いほぼ完全な自給自足の生活を送っている。
農業は農薬や化学肥料を全く使わずアーミッシュの農作物は市場では高値で
売られ一部の高級ホテルや高級レストランで重宝されている。

 

今回の「インタビュー特集」「有機農法と家庭菜園」-食の安心・安全と確保について-

(前編)は慣行農法と有機農法の違いと、農業の歴史についてお話を聞いて参りました。
ここまでと致します。

次回、(後編)は「食の安心安全と確保について」又、「家庭菜園の重要性について」の内容で具体的に語って頂きます。どうぞお楽しみにお待ちください。

 

それから、市民の皆様に有意義なお知らせがあります!今回、平成29年2月25日26日(土日)に開催されます「 有機農法 と 自然農法 」のイベントをご紹介いたします。是非ご参加ください!

1.名 称
「第5回食と農ぬちぐすいフェスタ」~健康長寿は生きた食から!~

 

2.コンセプト
「まるごと・ま~さん新鮮食材」「生命力豊かな農業へ」「食生活を見直し健康長寿」

3.目 的
農業は、国土を守り、人々の生活を支える大切な国の基である。その中でも、有機農業や自然農法等は、市民の食の安全を高めるほか、環境への負荷を軽減し、地域に根差した食文化の価値を再認識し、食育推進にもつながる多面的機能を有している。
「食と農ぬちぐすいフェスタ」は、有機農業や自然農法等はもちろん、農薬や化学肥料の使用を抑える等、環境保全型農業に取り組む生産者、それらを材料として特産品を製造する加工食品関連、外食関連、健康、流通等において賛同する方々に呼びかけ共に開催し、県民消費者へ広く広報し、健康を支える生命力豊かな農業への転換を推進し、現代の食生活に警鐘を鳴らし、健康長寿を取りもどす沖縄の伝統食の復活や食文化の継承を訴え、生産者と消費者、理解する流通者、外食産業等の拡大を図りつつ、人間の生命力を高める各種健康法の紹介も併せて行い、農と食を中心に、心身ともに健康なまちづくり、健康長寿沖縄に貢献することを目的とする。

4.主催・後援・協賛について

主 催 食と農ぬちぐすいフェスタ実行委員会

後 援
沖縄県農林水産部/沖縄市/うるま市/琉球大学農学部/沖縄県有機農業普及会/よんき産業研究会/農業生産法人㈱あいあいファーム/一般社団法人トータルウエルネスプロジェクトオキナワ/MOA自然農法沖縄県連合会/公益財団法人農業・環境・健康研究所/モリンガファームさんご園芸/一般社団法人MOA自然農法文化事業団/㈱ハルハウス/税理士法人タックスサポート/㈱ファイナンシャルリンク/㈱イタク/クリアス不動開発㈱/AGUREVO沖縄/CHARCOAL BAR ひぐま/㈱MOA商事/マスコミ各社/他

5.開催日
平成29年2月25日(土)~2月26日(日)午前10時から午後4時まで(2日間)

6.会場
沖縄市農民研修センター(沖縄市登川2380)

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