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浦添の素晴らしい海 鹿谷 麻夕(しかたに自然案内 代表) ビジネス・モール うらそえ 開設満8周年記念特別企画『投稿エッセイ』「大好きな沖縄へのメッセージ」

鹿谷 麻夕 (しかたに まゆ)
(しかたに自然案内 代表)

1968年東京出身。
文系の大学を卒業して社会人になった後、改めて琉球大学理学部海洋学科に入学、海の自然を学ぶ。
東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。
沖縄に戻り、しかたに自然案内を主宰。
県内において海の環境教育と環境保全活動を行う。

ビジネス・モールうらそえ開設満8周年おめでとうございます。

浦添で活躍する皆様がますます輝くことを願いつつ、私の浦添の海への想いをご紹介させていただこうと思います。

東京生まれの私が、海の自然を学びに沖縄に来たのは21年前。その後、沖縄で海の環境教育や保全活動を行うようになり、浦添の海と関わり始めて今年で10年になります。

私が沖縄に来た当時の海は、浅瀬を歩くとサンゴがたくさんはえていました。サンゴを踏まないように気をつけながら、潮だまりにいろいろな貝やカニやナマコやヒトデを見つけて楽しんだものです。またその当時、大学や地元の大先輩から「10年前、20年前の海はもっとすごかった」という話をずいぶん聞きました。浅瀬はサンゴをバキバキ踏まなければ歩けなかった、と。

私が大学院進学で一時沖縄を離れていた1998年の夏、世界中で大規模なサンゴの白化現象が起こりました。その後沖縄に戻って海を見たときのショックは今でも忘れません。あれだけサンゴが生えていた礁原が、ただの平らな岩盤に変わっています。あれだけ普通にたくさん見られていたサンゴ礁の生き物たち…貝やナマコが見えません。サンゴと生態的につながっていた生き物たちが、サンゴとともに一斉に姿を消してしまったのです。

サンゴ礁生態系の中で、サンゴが基盤となる生物だということは頭では分かっていましたが、それが実際どれだけ大きな存在だったのかを見せつけられていました。

これは、研究なんかしている場合じゃない、今自然が残っている場所だけでも保全しなければ、本当に沖縄の海の自然はなくなってしまう…そんな思いが、私を環境教育と保全活動へと向かわせました。

浦添の海と出合ったのは、そんな活動を始めて3年目の頃です。知人から、浦添の海について教えてほしいという人がいるので会ってくれないかと。その相手が、港川自治会の銘苅全郎会長でした。「昔はテラジャーがよく採れたけれども、今はすっかり減ってしまった。過去には米軍基地からの汚染事故もあった。今、はたしてこの海には価値があるのか、教えてほしい」というのです。

「こんなに素晴らしい海が、西海岸に残っていたとは…」

ここは、浅いイノーに白い砂地が広がり、緑の海草が生える「海草藻場(うみくさもば)」という環境です。泡瀬干潟や海中道路の金武湾側、恩納村の屋嘉田潟原、辺野古周辺などにも海草藻場はありますが、どれもみんなスタイルが少しずつ違います。それは地形や水深、水の流れや砂の堆積具合によって、海草藻場をとりまく環境条件が異なるからです。

浦添の海草藻場は、イノーがとにかく浅いこと、それでも潮の流れがあり水がきれいで、色々な種類の海草が元気に生えていること、面積が広くさえぎるものがない状態で、この広さそのものが、自然環境を維持するのに意味があることが感じられました。

イノーを歩くと、ナマコがごろごろ横たわり、二枚貝に巻貝、真っ赤なアナエビ、肉食性のカニやシャコがすぐに見つかります。岩のすき間からはウツボが顔を出します。タツノオトシゴの仲間を見つけたこともあります。海草が好物のアオウミガメの食み跡がそこかしこにあり、ウミヘビまでが餌を探しに浅瀬にやってきます。肉食の生き物たちが見られるということは、彼らを支える小動物たちが豊かな証拠であり、それを支えているのが、海草という植物です。海草は、ちょうとサンゴ礁におけるサンゴと同じように、海草藻場の生態系の基盤となる植物です。実は、沖縄に10数種類いる海草類自体が、今では準絶滅危惧種に指定されています。

 

ルリマダラシオマネキ

 

岸辺には湧水もありました。真水と海水が混ざる岩場のすき間には、こうした特異な環境にだけ生息する準絶滅危惧種の巻貝類がいます。シオマネキの仲間も数種類見られました。中でもオレンジのはさみと甲羅の青いまだら模様が美しいルリマダラシオマネキは、やはり準絶滅危惧種です。

「準絶滅危惧種」とは、もし今の生息環境が変化したり失われてしまえば、近い将来絶滅の危機に追いやられる可能性の高い生物のことです。こうした生物たちは、本来は海で普通に見られる種類ですが、埋め立てや人工護岸など、人の開発行為で彼らの住める自然海岸の環境が失われて来た結果、絶滅危惧に追いやられつつあると言えます。

港川小学校の児童(カーミージー海岸生物観察会)

そんな難しいことを言わなくても、浦添の西海岸はそこに立つだけで素晴らしさを感じられる場所でした。広く浅い海が遠くまで見渡せ、潮風に吹かれながら、透き通った水の中、白い砂と緑の海草の上を歩くのは、なんと気持ちのよいことでしょう。そしてその沖には、サンゴ礁がちゃんと広がっているのです。

今、浦添には西海岸開発の課題があります。経済発展を願う人々の気持ちは、決して悪いものではありません。「人の幸せと豊かさ」を願うのは皆同じです。ただ、沖縄の海はサンゴ礁が大きな打撃を受けていまだ回復していません。海草藻場については、生物多様性が飛び抜けて豊かだった泡瀬干潟が、一部埋め立てられただけで環境が激変しました。埋め立て地の内側にあった緑の絨毯のような海草類はほぼ消滅し、今では茶色い砂礫の干潟です。辺野古の海草藻場も基地移設問題に揺れています。海の原風景といえる砂浜でさえ、本島内ではすでに40カ所もの人工ビーチがあり、若い人たちは生物の乏しい人工ビーチを元々の自然の浜と思って疑問を感じない状態です。

沖縄の海草や多くの生き物たちが「準絶滅危惧種」に指定されている、というささやかな警告は、私たちの心に本当に届いているのでしょうか? 私たちは、次の世代、その次の世代に、この生き物たちが暮らす海を見せてあげることができるのでしょうか?

浦添の海は、沖縄の他の海草藻場とは少しずつ違う、ここにしかない環境です。ということは、日本でも世界でもここにしかありません。私はみなさんに一つお願いがあります。「人の幸せと豊かさ」に、ぜひもう一言加えてください。願うのは「人と生き物たちの幸せと豊かさ」であると。この気持ちをもって、自分たちの地域の自然環境をどう残し、上手に利用して行くのか。私たちの暮らしや社会のあり方を見直して行ってほしいと思います。

 

ビジネス・モール うらそえ 開設満8周年記念特別企画『投稿エッセイ』「大好きな沖縄へのメッセージ」

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