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浦添の西海岸開発で思うこと Part2

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− 第4回 –

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下地幸夫 (しもじ ゆきお)

1963年生まれ 浦添市出身
沖縄県ミバエ対策事業所(現沖縄県病害虫防除センター)で特殊害虫防除事業の研究に従事後、沖縄県産業振興公社沖縄イノベーション創出事業プログラムオフィサーを経て、現在、自然体験学習型エコツアー会社 沖縄ネイチャーウォーク代表
沖縄大学地域研究所特別研究員。
農学博士(岡山大学大学院)。
専門:生態学。
著書:「沖縄のクワガタムシ」(新星出版)

[関連記事]
“カーミージー 子供たちの熱い想いが造った「奇跡の海」と「奇跡の橋」” はこちら>>

去る6月8日に浦添市立港川小学校4年生が同市港川の海岸(通称・カーミージー)で海の生き物観察会を行った。琉球新報(6月12日)にその時の子どもた ちの楽しく学習している様子が載っている。近い将来、ここには、ここと宜野湾市宇地泊(宜野湾バイパス)を結ぶ臨港道路浦添線、全長2 kmの国道58号線のバイパス道路(浦添北道路)の接続部が造られることになっているので、建設後はこのような観察会をやるどころか、今いる生き物たちが 棲めない海になっているのではないかと心配される。

でも、この前のうらそえビジネスモールで配信された浦添警察署からお知らせを見たら、バイパス道路の必要性も考えさせられた。

浦添市を通るこの国道58号線、特に牧港交差点付近の交通量は、ナント九州1位だそうだ。そして2位も浦添市の安謝-勢理客区間らしい、更に浦添市330号線(バイパス)の旧健康増進センター前が3位だそうだ。九州のワースト1~3位を独占する浦添市の交通量を改善できないものかと、ここを利用する人は誰しもそう思っているのではないだろうか。

また“でも”だが、浦添市に残っている唯一無二の自然海岸、県内屈指の干潟を残せないものか、とも思っている。市当局は、このカーミージーの前方先の部分を残すから自然環境は保全できるし、既に西洲から始めた浦添市西海岸開発工事により絶滅しそうな貴重な生き物はここに移していると、自然環境への負荷を最小限にするためにやるべきことはやっていると説明するが、「しかたに自然案内」の鹿谷法一さんによりそれが大きな間違いであることが、彼の報告書で指摘された。

  • 琉球新報の記事 2009/05/25
  • 琉球新報の記事 2009/06/01

この浦添北道路をはじめ、浦添市西海岸開発に関係する一連の事柄をどれだけの浦添市民が知っているのだろうか?少なくとも港川小の子どもたちはそのことを知っていて真面目に環境学習に取り組んでいるのだが、果たして僕たち大人たちはどうだろう?

今年3月3日に港川小の子どもたちが浦添市西海岸開発をめぐって浦添市西海岸開発局の担当者と質疑応答をしている。知っている方もいるとは思うが、知らない人が案外多いのではないだろうか。その内容はかなりおもしろくて、それでいてこの西海岸開発を考えることにおいて重要なやりとりがされている。僕たち大人が聞けなかったことを子どもたちが代わりに質問をしているのだ。

浦添市西海岸開発局と港川小の子どもたち【質疑応答】△クリック

浦添市西海岸開発問題について知らない人もまだいると思うので、ここにあらためて載せたい(「しかたに自然案内」から引用)。この問題の入門編として、ぜひ、目を通してほしい。

この問答の後に僕のコメントを付け加えている。

子どもたち(港小4年生):

Q1 どうして 貴重な生き物を殺してまで道路を作るのですか?

開発局:「車の流れがスムーズになると、排出されるCO2の量が少し減るし、時間が短くなる。その分、自分の時間がもてる。これが1日何万台・何万人に対して効果がある。生き物の住み家を奪うのは問題だが、それと比べてどうする。西洲にある沖縄の優良企業上位40社がやって行けない、生活に困ってしまう。たまには生き物も犠牲になる事もある。」

下地コメント:「貴重な生き物(自然環境)より人間生活が大事と言うけれど、自然なくして人は生きていけない。人は自然から生きていくために酸素を始め、衣食住に必要ないろいろなものをもらっている。道路は必要だし、環境保全も大切と思うから、その是非については市民と話し合うべきだと思う。」

子どもたち:

Q2 生き物と道路はどちらが大事なんですか?

開発局:昔の人は生きるために生き物を殺してきた。物が豊かになって、生き物の事にも目を向けるようになってきた。場所によっては、生き物を守る事もあるけれど。戦後は、食べるために、生き物の事は後回しになっていた。 今は、法律や条例によって、決められている。 県の条例で、県の方で先生方が3年間話しあって、生き物より、道を作る事を決めた。

下地:「話し合って決めたなんて、そんなこと知らなかったよ。僕たちとの話し合いはどうなのさ。せめて僕たち市民に呼び掛けて公の場で説明してよ。」

子どもたち:

Q3 どうして自然を壊して海に作るんですか? 基地の中に作らないんですか?

開発局:お金と時間の問題。 埋立ては、20年前から計画があったから、早く道路を作る必要がある。北側は何とか海を守った。 道路を作るタイミングは今。 基地の中に道路を作るのは、いつできるようになるかわからない。何10年も先? 道路を作るお金は、港の荷物を運ぶためのお金なので、海沿いに作る。難しい決まりについては、役所に聞きに来て欲しい。

下地:「基地が返還されても土地の所有者の問題があって確かにスムーズにいかないだろうね。20年も時間があったのなら、工法について市民と議論を深めることができたのではないかな…。ハァ~この時間がもったいなかったなぁ。」

子どもたち:

Q4 道路を作るお金はどのくらいですか?

開発局:護岸を作る+汚濁防止膜を張る+埋立てる+道を作る+下水道整備=50億円  空港から三重城の所を通る海の道は1,000億円

下地:「それが高いのかどうかは分らないが、環境保全ができるのならいくらになるのかも試算してほしい。」

子どもたち:

Q5 全部を橋にできないのですか?

開発局:県の審議でそう言う先生もいた。「費用対効果」というのがあるので、お金がかかりすぎると道を作る意味がない。全部橋になると、お金がかかりすぎる。 高すぎると作る意味がない。埋立ててできる土地が欲しい人もいる。西洲の企業からは、浦添市に毎年4億円の税金が入ってくる。西洲の企業があるから、みんな豊かな暮らしができる。環境もあるけど、仕事を作ることも重要。

下地:「費用対効果とは何を根拠に言っているのか分らない。自然環境を保全する価値はないということか?環境保全ができるならお金を掛けても良いのでは。お金がたくさん入れば開発関係者にとっても良いことでしょ。ただし、広大な海浜を埋め立てて用地をつくる話しは別物と思っている。これをすると多様な生物相は壊滅する。ところで、豊かな暮らしとは何だろう?その価値は人それぞれなのでみんなが豊かになるとは思えない。」

子どもたち:

Q6 どうしてカーミージーの西海岸を埋めるの?

開発局:カーミージーの方はあまりいじらない。カーミージーの方では、今までのように活動できる。

下地:「現在の生物多様性が維持されているとは思えないので、今までのように活動できるというのは間違い。」

子どもたち:

Q7 新しい道路ができたら、またCO2が増えるのでは?

開発局:車が2つの道に分かれるので、混雑が減り、 CO2が減る。時速60~70キロで走るとCO2が減る事になるので、58号線も新しい道もスムーズになる。ただし、車の数が同じくらいと考えた場合。もし車の数が急に増えたら、CO2も増える。

下地:「CO2を吸収(減らす)能力はサンゴや藻類など海に棲む生物のほうが優れている。自然を壊すとかえってCO2が増えることになる。」

子どもたち:

Q8 カーミージーの所に橋を架けるのは、だれが決めたの?

開発局:市と県が要望して、国と相談して決めた。道路の通る所に、たまたまカーミージーがあった。 浦添市が橋にして下さいと、国にお願いした。

下地:「手続きのルールに乗っといて決めたと思うけど、決まるまで僕らが知らなかったのは問題だ。知らなかった僕らにも責任はある。」

子どもたち:

Q9 道ができて、人が来て、ゴミをポイ捨てして海が汚れると、生き物がしんでしまう。

開発局:これはモラルの問題で、みんなに気をつけてもらうしかない。 ゴミを捨てないようにしてね。

下地:「子どもたちは道路ができることによる2次的弊害を指摘している。確かにそういうことも考えられる。」

子どもたち:

Q10 全部を橋にすると、どのくらいお金がかかるの?

開発局:普通の道路と比べてどのくらい高くなるか、まだわからない。かなり高い。

下地:「そもそも比べてみる予算など持っていないからやらないだろう。でも、やってみるべきだと思う。」

子どもたち:

Q11 少しでも自然は残せないのですか?

開発局:カーミージーの方から1kmは橋にしました。

下地:「橋の下は残しても周辺を埋め立てて自然を残せるとは言えない。」

子どもたち:

Q12 西海岸はいっぱい貴重な生き物がいるのに、それでも道路を作りたいのですか?

開発局:審査会を3年やって、議論されて、道を作ってもいい事になった。工事中も、生き物の調査をします。

下地:「審査会があったなんて知らなかった。今後市民への説明はないのかな。それに工事中の生き物調査なんて意味あるのかな。貴重な生き物がいたら工事を止めることがあるの?」

子どもたち:

Q13 1ヶ所だけでなく、所々に橋は作れないのですか?

開発局:橋にすると道路が高くなって、土地の使い方が難しくなる。作るのも難しい。

下地:「やれるかどうか専門家と議論を尽くしたのだろうか。」

子どもたち:

Q14 貴重な生き物を保護するまで、待つ事はできないのですか?

開発局:今回、ここから、埋めない場所に移します。貴重なオカヤドカリは移してあげようと思う。 せめて人ができるのは、それくらいかなと思う。 ただし、移しても、生き残るかどうか、わからない。北側のいい所に移したいので、手伝ってほしい。

下地:「野生の生き物は自ら住み良い場所を選好して棲み処にしているので、それを無理やり移すというのは人の身勝手な発想であり、あまり感心できることではない。そんなことを子どもにさせるのは環境教育としていかがなものだろうか。」

質疑応答は以上

国の天然記念物オカヤドカリ等を代表とする「多くの海の生き物たちを移動(移植)する事業」を浦添市からの依頼で、港川小学校4年生の子どもたちによって行なわれた。
△クリック

さて、子どもたちはなかなか鋭い質問をしている。額に汗を浮かべて回答する当局職員の対応が目に浮かぶようだ。子どもたちが市民を代表してこういう質問をしているといっても言い過ぎではないと思う。でも、子どもたちはその後、「どうにかしたい、どうにかならないものか」と思っていてもどうすることもできない。どうにかできるのは僕たち大人なのである。

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ところが、肝心な大人たちの多くがこのことを知らない。大人の市民が知らないうちにどんどん工事が進んでいくというのは良くないのでは。一見キャンプキンザーで閉ざされた海のようだけど、アクセスは容易である。気軽に散歩気分で見に行くのもいいし、いずれ無くなってしまう海として記憶にとどめて置くつもりでも構わないと思う。まずは知ることが大事だ。それで、市としても一度広く市民に呼び掛けて、市民に考える機会を設けてはどうだろうか。市民に認知してもらうために現地もしくは集会場などで大きく説明会を開くのも良いと思う。そうでもしないと、今後、この問題が市内外でエスカレートしていくのは目に見えている。それは、浦添市西海岸開発をキーワードにインターネットの中を覗けば明らかだ。このような説明会等を開催した後、市民の大多数が今のままで工事を進めて良いと判断すれば、それで良いし、そうでなければ、その結果を受け止めて別の工法に改めても遅くはないでしょう。

里浜学習活動により、完全埋め立ての道路建設(ボックスカルパート)の予定が
一部橋梁へと変化した。

これまでは、完全なる埋め立ての工法に、少し海水路を通した道路建設(ボックスカルパート)が計画で予定されていたが、浦添市民里浜ネットワークと港川小学校の子ども達の里浜学習活動により、道路が一部橋梁へ見直された事はとても画期的なことだと思う。地域の方々が無関心ではいけない、海岸を守るために港川カーミージーの重要な海洋生物の生態を学ぶ活動をし、重要性を発表したのである。この里浜活動と、浦添市西海岸開発課の方々の理解が計画の一部変更に結びついた、大変評価すべきことだと思う。

△クリックで拡大(沖縄総合事務局空港港湾整備事務所より)

ところが、良く良く見ると橋の着地する所が交差点へ繋がる為、大きく埋め立てられる予定となっている。そこは私たち市民が海に入る一番大切なアポローチの部分であり、希少な生物の住処で自然の生命線、海流の道である。ここを埋め立てれば海流が変り、残すと決めた大サンゴ礁群に多大な影響を与え、サンゴ礁群が生き残れない可能性が高い。これを見ると、中途半端で、まだまだ設計・工法を見直さなければならない部分が残っているとしか言えない。現代の建設技術をもってすれば、橋梁のまま道路を交差点へ通す建設設計をすることは全く可能なはず。

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浦添の西海岸道路はカーミージーの陸地上で、北から延びる宜野湾市の海浜道路と結ばれ、又、58号線とも結ばれる三叉路の交差点となる予定の位置でもある。
△クリックで拡大

この一番重要な海岸区域(橋着地点)を埋め立てずに浦添市民の憩いの場として自然を残して頂くには、僕ら、市民が関心を持って意見を言わなければならないと思う。

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現在すでに橋梁道路の橋げたを建設する位置でボーリング調査が始まっている。橋梁道路の着地点の手前の海が大幅に埋め立てられる予定。(2009年8月16日撮影)
△クリックで拡大

海岸バイパス道路の必要性を 前提にこの方法しかないのかどうか、再検討して、自然保全と開発の妥協案を探る必要があると思う。両方の案を組み入れるとお金がかかると言うかもしれない けど、両方にとって良いことならお金をかけたっていいとも思う。お金がたくさん落ちて県経済が潤い、自然環境も保全できるというならそれに超したことはな い。国や、県や市は何も言わなければ自然に配慮せず一番安い工法を選ぶでしょう。でも、浦添に一箇所しかない自然の海岸を残しながら道路は建設できるのですよ、市民のみなさ ん!

これぞ!『 日本版 グリーン・ニューディール政策事業 』ですよ!

※『 日本版 グリーン・ニューディール政策事業 』とは?
つまりグリーンエネルギーをはじめとする様々な環境問題への取り組みを活発に行うことで雇用を創出し、環境対策を進めつつ経済も活性化させてしまおう、というものだ。

浦添市西海岸開発を一言で言えば、「人の生活を豊かにすることは何よりも優先される」ということだろう。それは全く否定できない。それにしてもこの「豊か」とは何だろう。人によってそれは「お金」であったり、「自然」であったり。僕たちはいつもこの間(はざま)で揺れている。沖縄県の大動脈とも言える国道58号線(特に浦添市)をあふれるような自動車の量で滞らせているのを見ると、経済的なロスが大きいことも直観的に理解できるし、バイパス道路の必要性を感じる。しかし、現在進めているやり方で今の状況を改善するのは良いが、未来はどうなのだろうか。50年後、100年後の人たちは僕たちが残したものに感謝してくれるだろうか。多くの人が、子や孫、またその子どもたちのために資産を残したいという気持ちを持ちながら自然という財産も残したいとも思っている。正直言ってどちらも残したいよね。

皆さん、次の世代に何を残すべきか、カーミージーを含め浦添の西海岸を見て考えてみてはどうでしょうか。開発工事は既に始まっていますよ。自然の景観を残す浦添西海岸に行くなら今のうちですよ。

那覇港港湾計画図[PDF]>>

那覇港(浦添ふ頭地区)公有水面埋立事業[PDF]>>

カーミージー 子供たちの熱い想いが造った「奇跡の海」と「奇跡の橋」>>

※「沖縄ネイチャーウォーク」はこちら>>

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